岡野史佳作品における
犬の果たす役割

Words : バンヒロユキ

 岡野史佳の作品にはよく動物達が登場する。『瞳の中の王国』ではイルカ。『少年宇宙』では「カノープス」(←あの黒ネコちゃんね),『ハッピートーク』では「デイジー」の相棒カラスの「ジャッキー」,…などなど挙げればきりがない(ってこれくらいかぁ?)。いろいろあるなかでもここで取り上げるのは『犬』である。最も身近な動物だけ合って岡野史佳の作品にはよく登場するのだ。

 まず一匹目は『惑星Aのこどもたち』の「オーヴィル」。コリー犬だ。末っ子の「ウィルバー」と合わせてライト兄弟なのね。ってなわけで「オーヴィル」は「ウィルバー」の弟分。「ウィルバー」は宇宙を飛ぶことを夢見る少年。それ故出番はハッキリ言って少ないけどライト兄弟の片割れ「オービル」が作品のなかで果たす役割は大きいのだ。そんでもって「オービル」は犬でなくちゃダメなんだ。これがネコではなんかおかしい。少年の夢と希望にはコタツで丸まっちゃうネコよりビビッドなイメージの強いワンちゃんが似合うってなわけだ(←少々強引だが気にしないでくれ)。

 岡野史佳の作品に登場する犬と言えば真っ先に思いつくのはやはり「犬太(ケンタ)」だろう。『37℃』で桐原家のペットの眉毛付き(←ここが重要)のわんこである。「犬太」は岡野史佳の作品の中でも一番目立っていて,なおかつストーリー的に重要な役割を果たす(そこまで言うか?)犬である。『37℃』については多くを語る必要はないと思うが,同じ屋根の下に住む異母兄弟「桐原櫂」と「桐原水結」との間の恋のお話(←凄く面白いんだな,これが!)である。「ケンタ」は主人公「桐原櫂」のよき理解者(犬?)として話を聞いてやったり(聞かされてるだけ?),男(オス?)同士の語らい(語られてるだけ?)が頻繁に行われていたりする。何か困ったことがあると「櫂」は自分の部屋に「ケンタ」を連れ込み悩みを打ち明ける「俺の本心をしってるのはおまえだけだケンタ」「だからへやにいれたのはないしょだぜ」「…だいたい隣の部屋で鍵も掛けず寝起きしている子を好きになるなんてまるで拷問だよな犬太」…ってな具合に。しかし反面『ケンタ』も飼い主に似てしっかり片思いしていたりする。そこら辺が特に可愛かったりするのだ。そんでもって「櫂」と「水結」は河原でのデートのときに必ずケンタを連れていっている。実際最近のカップルはデートに犬を利用するようである。アパートでペットを変えない人たちもも犬のレンタルショップを利用してデートに犬を連れて行くそうだ。考えるにお互い共通なモノ(この場合は犬)を見つめることでより連帯感が強まるのだろう。もちろん「櫂」と「水結」のデートでもそう言った効果はあったと思うが,何よりケンタの散歩を口実にデート。っていうのがデートにケンタを連れていった一番の理由だろう。ところで『37℃』において助演男優賞があるなら間違いなく「ケンタ」はノミネートされるだろう。やはり作品中重要な役割を果たしいるし彼(←ケンタ)のおかげで作品のイメージもだいぶ変わっていると思うのだ。ただし受賞するとは言わないが…。

 もう一匹は『海育ちに風』に登場の「犬山くん」(←これでフルネームだそうだ)。人見知りの激しい大きな秋田犬ということだがこちらは全くの脇役。「ケンタ」ほど色々な表情は見せてくれない。「青木さん」と「岸田さん」が巡り会うための手段的要素が強くてキャラクターと印象としては低い。書いてる自分も読み返して存在を思い出したくらい…。それでも愛くるしい表情とか一言(「ハァ〜」とか)がとってもハートウォーミング。動物の力って凄い…。因みに飼い主の「青木さん」は「犬山くん」という名前をかっこいいと思っている変わった感性の持ち主である。

 そしてもう一匹助演女優賞ノミネート(今度は男優賞ではない)モノのわんこがいるのである。『ハッピー・トーク』に出てくる「ジェムおじさん」ちの「ピート」&「スミスさん」とこの犬だ。岡野史佳お得意のファンタジーでもきっちりワンちゃん達も活躍するのである。そんでも「スミスさん」とこの犬は完全に脇役。伝書鳩ならぬ伝書犬。でもって表情も全く見せない。忍びの者(犬?)としては一流だけどね。んでもって「ピート」。こちらは出番は少ないものの活躍してくれます。出会い頭はカラスの「ジャッキー」とはちと仲が悪かったが,それ以後は仲良く連係プレー。そんでもって最大の活躍は「デイジー」に喋れるようにして貰ってから。ちなみに第一声は「よくも泥炭(ピート)なんて名前をつけたものね!ジェムおじさん」「あたしこれでも立派な女の子なんだから」である。女の子とはいえデイジーばりのおてんばぶり。とはいえ喋れるようになったら「ピート」は犬なんだと分かっているもののどうしても擬人化してしまう。それ故ここから彼女の人間並み,いやそれ以上の活躍が始まるのだ。「クンクン…」と御自慢の鼻を活かしたり,がぶりと悪党どもにかみつき狂犬病地獄。まさに大活躍なのだ。ここまで活躍するワンちゃん(と言っても喋れるわけで,そう言った意味では犬としての能力を超えているわけでそこら辺はちょっと反則かもしらないが…)はほかの岡野史佳作品にはいない…。

 こうしてみると岡野史佳の作品には結構犬の果たす役割が大きいのが分かる。特に『37℃』での「ケンタ」の果たす役割は凄い(あくまでも犬としては)。また『ハッピー・トーク』の「ピート」はストーリーのなかできっちり活躍しているのだ。そして3作品共通して言えるのは先に述べたように人物キャラではなかなか与えることが出来ないようなハートウォーミングなイメージをその愛くるしい表情で与えてくれる。犬嫌いだった僕が言うんだから間違いないだろう。ところで次回は『岡野史佳作品におけるネコの役割』についてお送りしよう。…え,いい加減にしろって?

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[$Id: einu.html,v 1.1 2001/08/19 14:38:54 lapis Exp $]