少年宇宙的音楽世界

Words by たてにょん

ここに、少年宇宙的世界観を体現している音楽がある。

「こどもと魔法」竹村延和
ワーナー・ミュージック・ジャパン

このCDは、竹村延和のセカンド・アルバム。ジャンルは、ない。あえて言うならば、音楽そのもの。一曲目「solitary walker」からして、遠くに聞こえるアルペジオ、足音からはじまり、シンプルなフレーズの繰り返しが幾重にも重ねられていく。とにかく、一般的な意味で「楽しい」音楽という感じではない。………しかし。にもかかわらず、solitary walkerを聴くと、わけもなく楽しく、ワクワクとした心持ちになってしまう。聴きなれた安心するありきたりのフレーズや言葉を超えて、はじめて音楽を聴いたときの驚きや喜びを感じさせてくれる。日ごろほとんど耳にしないような音から、日常よく耳にしているにもかかわらず聞き逃しているような音まで、とにかく、「音」そのものにたいして、敏感なアルバムである。良い音楽というものは、多かれ少なかれ、人間の耳という感覚器自体が、いかに慣習の中に埋もれているかということを気づかせてくれるが、このアルバムも、なまった感覚自体をリフレッシュしてくれるかのような清々しさにみちている。聴いていて退屈だと思ったら、BGMにするのが良い。聴いているうちに、どんどん音楽の中に「音」を再発見していける。それもまた音楽の楽しみの一つだろう。

この「こどもと魔法」を聴いていて、「少年宇宙」とつながるものを感じたので、以下では、その印象をランダムに書き連ねていきたい。

1.Solitary Walker
コンラッドやマドレーヌ、沈黙の中で鳴るオルゴールのような、機械たちの孤独な歩み。永遠の繰り返し。悲しいけれど美しい彼らの存在と、重層的で単調で、しかし複雑に繰り返される音の重なりが、響き会います。深い、深い、どこまでも深い孤独。でも、その足取りはきっと、何よりも力強いものであるに違いないと、思っています。

2.The back of the moon
 月の裏側…というタイトルではありますが、水晶林に流星群が降ってくる場面の音楽、といった感じがします。むかしむかし、月の裏側には何かがあるといわれていました。宇宙に隠された秘密の場所、という意味では、共通しているのかもしれません。

3.Long long night
境界領域。どこからがトイズヒルで、どこからが現実なのか。本当はそんな問いには意味が無いのかもしれない。けれど、眠りの果てにあるかもしれないその世界との境界領域は、きっとあるのでしょう。そんな、長い、長い、夜のための音楽。導かれた先にある世界を、垣間見せてくれるような音。

4.At the lakeside
これはもう、コンラッドたちが見つけた、過去の眠る大きな湖のテーマです。このアルバムのライナーノーツにある「湖の閉じた部分」は、そのまま、湖底に広がっているかもしれない「過去」を示しているように思えてなりません。

5.Image of time
 時のイメージ。それは、少年宇宙の中でも繰り返したちあらわれるモチーフでもあります。時間、時間、時間。ノイジィではありますが、「まばたきのように入れ替わる昼と夜」に示されている不思議な時間感覚は、この音楽と奇妙にシンクロするのでした。ドラムやノイズの音は、不確実な時を刻む機械の音のようで………。

6.Clown and crown
 不条理な存在でもある「トイズヒル」は、いつでもこんな音楽が流れているのかもしれません。何時でもあるし、何時でもない世界。ルグリとカノープスの、ファニーでなおかつちょっぴり哲学的な問いかけのバックに、流れているかもしれない音のように感じます。

7.A reader of tale
 ジャン=ジャリー=レニエが辿った遍歴は、もしかすると「物語における読者」の振る舞いそのままなのかもしれません。お話の世界が目の前に現れたら、いったい人間はどうなってしまうのか。ファンタジックでありながら実は、優れて現実的な問いかけです。この曲はだから、そんなジャン=ジャリー=レニエのための音楽、です。

8.Birth / une mort tres douce
 この2曲は、「コンラッド」の死と誕生そのものを象徴しているかのようです。「僕は生きてるよ」といったコンラッドには、機械のもの悲しさなんて、カケラも感じない。そこには、生命の力強ささえ感じるのです。だから、このBirthという音楽は、人形コンラッドのテーマ曲です。それに対する「おだやかな死」は、コンラッドという人間の死、そして死ぬことで永遠を獲得してしまった「コンラッド」という存在を象徴しているかのようです。悲しさというよりは、おだやかな沈黙を示しているかのような音で。トイズヒルという異界は、「死と生」という分化が存在しない世界。そしてそれこそが、もしかすると「おだやかな死」なのかもしれません。

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[$Id: music1.html,v 1.1 2001/11/10 18:08:47 lapis Exp $]